綺麗なバラにはややこしい棘がある。

その日、新西宮ホテルにて緋慈華汰斗肢(本名:泥片歳)は食後の腹ごなしにとホテル内を散歩していた。
ビジネスホテルのような外観とは別に、庭に小さいが品のいい花壇をしつらえており。
それを見るのが緋慈華汰の密かな楽しみになっていた。

「…おや。」
いつものように庭に行くと、小ぶりのバラの花がいくつか落ちていた。
どうやら剪定した時に忘れたもののようだ。
剪定されたものとはいえ、艶やかな咲ぶりであった。
それを見て緋慈華汰はあることを思いついた。


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「これで、よし。と。」
緋慈華汰はバラの花弁をガラスの器に移して入れさせてもらった。
花のままでもよかったが、そのうちに色あせると目立つので。
ホテルの従業員に頼み、そうさせてもらったのだ。

花弁は赤とピンクで、水に浮かび美しいグラデーションを見せた。

それを満足してみていると。


「あれ、綺麗ですね、それ。」
「うん?」
声がかけられ、緋慈華汰は顔を上げた。
そこにいたのは。

「おや、いつも非常に元気で声も大きく時に騒々しいほどに明るい十二支の猿野くんじゃないか。
 今日は特訓はもう終わりかい?」
「…ところどころ棘を感じますけど。」
相変わらずやたらと修飾語をつける緋慈華汰に少々閉口しながらも。
天国はめげることもなく話を続けた。

「まそんなことより。どうしたんですか、その花弁。
 何か綺麗っすね。」
その言葉に緋慈華汰はなんともいえぬ喜びを感じた。
少なからず特別に思っている彼に、そう言ってもらえたのだ。

「そう思うかい?嬉しいね、君にこの高尚かつ控えめで清楚な美を感じてもらえるのは。」
「は…はあ。いや、高尚とかそう言うんじゃなくて…ただ綺麗だなって。」
「その鋭敏な重要が非常に重要かつ大事なものだよ。
 君も枝から落ちた花に残る美しさと世の無情を感じ…。」

「あ、落ちてたんですか?あ、これ茎ですね。」
一言ひとことが既に長い緋慈華汰の話を延々と聞いているのは精神的に楽とは言えず。
天国は話題を帰るべく傍にあった茎に手を出した。


「痛っ…!」
「だ、大丈夫かい?!」

茎に触れた手は棘に傷ついていた。
じわり、と天国の指から血が染み出てくる。

「てー…マジ綺麗なバラには棘があるって感じっすね。」
天国は苦笑しながら緋慈華汰に言うと。
緋慈華汰はあわてていた。

「何落ち着いてるんだい、早く手当てを…。」
「いや、これくらい舐めたら治りますよ。」
「ダメだよ!ほらよく見てごらんよ、指に棘が残って…。」



「貸せ。」
「え?」
「あ!」


突然ぐい、と天国は棘の刺さった指を引っ張られる。
視線の先には、華武高校のキャプテンで、埼玉選抜チームのキャプテンでもある屑桐無涯。

「あ、屑桐さ…??!!」

驚いている間に、屑桐はもっと驚くことをした。


天国の棘の刺さった指に唇を寄せて。
そのまま口で抜き取ったのだ。
「取れたぞ。」

「……。」
「……。」
その様子を、二人は呆然と見ていた。

「…あ…す、すまん。」
屑桐は自分の行為がかなり大胆だったことに気づいたのか。
頬を赤らめた。

(うわ珍しいもん見た…。)
と、鈍い約1名が見ている中。

緋慈華汰は横からいい役を取られたような気がして、じっとりと屑桐を睨んだ。
「…随分と大胆だね、屑桐君。」
「…普段から弟にやってるもんでな。つい…。」

「屑桐さーん、何かカッコいいことしてる気ですねえ〜〜?(  ̄3 ̄)〜♪」
「…ずるいング…。」
「……お前らもか…。」
背後から今度は確実にでばがめをしていたのであろう、後輩二人に。
屑桐は背を向けたままため息をつく。

とりあえずからかいたそうに恨めしそうにしている男子高校生をおいて。
屑桐は天国に改めて謝罪した。

「すまなかったな、猿野。方法がよくなかった。」
まだ赤い顔を隠せてはいなかったが。
天国はまさか自分と向かい合っているせいだとは思っても居らず。

多分自分らしくないことをして照れてるのでは、と思った。

そして自分は気にしていないことを伝えよう、と口を開く。

「いえ…オレも昔…。」


「え?」



「こーらっ!あんた達、何天国ちゃんの傷をほったらかしにしてるのよお?!」

「??!!」
「ね、姐さん?!」
「あ〜オカマ!!(;゜0゜)」
「中宮くん?!」
「また来たング…。」

やっぱり状況を知っていたような紅印は、周りの文句を気にすることもなく。
天国の目の前に足早にたどり着くと、その手をとった。

「はい、手当て手当て。」
どこから取り出したのかマキ○ンを手に取り、プシュ、とふきかける。

「しみ…っ。」
ぴくり、と反応する天国に。
なんとなく止め損ねていた周りの面々は硬直した。


(((((かわいい…。))))

さてその間に紅印は手早く手当てを済ませた。

「はい、これでOKよ。」
「あ、すみません姐さん。」

素直に礼を言う天国に、紅印は嬉しそうに笑った。
「いいのよ、お礼はいただくから。」
「え?お礼って…。」


ちゅ。


それは羽のような、キス。
勿論、天国の唇に。

「な。」
「な…ヽ(。_゜)ノ 」
「なぁっ??!!」
「中宮ぁあああああ!!!!」


「ほーっほっほっほ、先手必勝よぉ?!」

高笑いするとともに、紅印は怒り狂う4名を尻目に去っていく。

「待てぃ!!」
「抜け駆けもいい加減にしたまえ!!」
「緋慈華汰さんだって同じングよ…?!」
「今はそんなこと言ってる場合じゃない気、白春!!('ロ')」

叫びつつも4人も追っていった。


「……なんなんだよ一体。」
天国は呆然と見送った。


ガラスの器に浮いたバラの花弁は。
自分が騒動の原因とも知らずに、ゆらゆらとゆれた。



                                         end


久しぶりのリクエスト更新です。
綺羅さま、大変遅れまして本当に申し訳ありませんでした。
今回は見事なくらいの「ヤマなしオチなしイミなし」ですね。
ただ単に棘を口で抜くちょっと色気のあるシーンをやりたかったんですが…。
前と後ろがつながりませんでした。本当に申し訳ありません!!

綺羅さま、素敵なリクエスト本当にありがとうございました!
またお気が向きましたらこちらのサイトにいらしてくださいませ。


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